建設ICTとは?企業のメリットや活用事例、現状と課題も解説
建設ICTは、導入することで業務効率化による生産性向上を目指せるIT技術です。
建設業界が抱える人手不足、長時間労働、安全性の確保といった課題に対し、有効な手段として注目されています。
この記事では、ICTの導入を検討している企業に向けて、建設ICTのメリットや活動事例を解説します。
建設ICTを導入すべき3つの業務や、現状と課題などもまとめているので、ぜひ参考にしてください。
建設ICTとは?
建設ICTとは、建設業の一連の作業である調査・設計・施工・維持管理・修繕のおいて、生産性向上に貢献する情報通信技術(ICT)のことです。ICTを取り入れることで、業務効率化による生産性の向上、従業員一人当たりの業務負担の軽減など、さまざまな効果が期待できます。
建設業で進められているICTには、以下のような施策があります。
- タブレット端末を使用した図面や書類の共有・管理
- 現場と社内システムの連動によるデータ活用
- WEBカメラを用いた現場状況の確認
- スマホアプリを使用した勤怠管理・健康管理
- 危険個所でのドローン活用 など
以降では、比較されることの多い「ICT」と「i-Construction」の違いを紹介します。
ICTとi-Constructionとの違い
ICTとは、「Information and Communication Technology」の略で、日本語では「情報通信技術」といいます。
一方i-Constructionは、国土交通省が推進する取り組みで、ICTの導入による建設業界全体の生産性向上を目指しています。
ICTはIT技術そのものを示すのに対し、i-ConstructionはICTを活用して行う取り組みを意味します。
建設ICTが求められる理由と背景
建設業界でICT化が求められる理由と背景は、おもに下記の3つです。
- 人手不足の慢性化
- 作業の効率化・生産性の向上
- 働き方改革の推進
一つずつ詳細を見ていきましょう。
人手不足の慢性化
建設業界では従業員の高齢化、若手職員の減少により、慢性的な人手不足が問題となっています。国土交通省「建設業、不動産業界の最新動向、今後の展開」の調べによると、建設業の就業者数は1997年の685万人をピークに減少が続いています。
年度 |
建設業就業者数 |
1997年 |
685万人 |
2020年 | 492万人 |
2021年 | 485万人 |
2022年 | 479万人 |
2023年 |
483万人 |
引用:国土交通省「建設業、不動産業界の最新動向、今後の展開」
2023年の就業者数は483万人で、1997年のピーク時から約30%減少しています。
建設業のICT化により、若手職員の確保と技術の継承を促進し、業界全体の成長を推し進める狙いがあります。
作業の効率化・生産性の向上
建築業界ではICT化が急速に進んでいる一方で、手作業や現場での業務が多く、アナログ作業が中心の企業も少なくありません。現場に写真を撮りに行き、事務所に戻って入力作業をこなすなど、効率化に向けて改善の余地がある状況です。
図面や資料、書類といった情報を電子データで共有・管理し、アナログ業務を減らすことで、作業の効率化と生産性の向上につながります。
働き方改革の推進
建設業界では労働時間が長く、出勤日数が多い傾向があります。国土交通省「建設業、不動産業界の最新動向、今後の展開」の調べによると、労働時間は全産業と比べて68時間長く、年間の出勤日数も12日多いことが分かっています。
建設業の働き方改革の取り組みとして、2024年4月1日より「時間外労働の上限規制」が適用されました。ICTを建築業界に適用し、効率化・生産性を向上させることで、労働環境の改善に寄与することが期待されています。
建築業界にICTを取り入れるメリット
建築業界にICTを取り入れるメリットは、おもに下記3つです。
- 職場環境の改善
- 生産性・安全性・品質の向上
- 若手技術者の育成
具体的にどのような効果が期待できるのか、確認していきましょう。
職場環境の改善
建設ICTを活用することで生産性が向上し、労働時間が短縮されます。建設業界で課題とされている長時間労働の改善につながり、従業員の負担軽減や働きやすい環境づくりが進むでしょう。
さらに、ICTにより少ない人手でも効率的に作業を進めることが可能です。企業が抱える人手不足の解消にも期待できます。
生産性・安全性・品質の向上
ICTは生産性の向上だけでなく、安全対策や品質確保にも貢献します。たとえば、現場での作業状況をリアルタイムでモニタリングすることで、事故のリスクを減らし、安全性を高めることが可能です。また、高精度なデータを活用することで、施工の精度が向上し、品質の安定化にもつながります。
通常であれば足場を組んで撮影する高所作業を、ドローンを活用する企業も増えています。作業時間の短縮だけでなく、高所作業に伴うリスクの軽減にも期待できるでしょう。
若手技術者の育成
ICT化によるデータのデジタル化は、若手に活躍の場を与え、成長の機会を提供します。デジタルに強い若手技術者が3D施工データを活用し、現場を取り仕切る動きも増えつつあります。
さらに、オンラインコミュニケーションツールを活用することで、遠隔地にいるベテラン技術者から、映像を通じて指導を受けることが可能です。若手に経験を積ませながら、ベテラン技術者が遠隔でフォローする体制が整います。
建築業界でICTを取り入れるべき3つの業務
建築業界でICT化を推進する際、とくに効果を発揮するのが下記3つの業務です。
- 情報・資料の共有と管理
- 安全の確保と健康管理
- 打ち合わせ・会議のための現場移動
それぞれのポイントと取り入れ方も紹介します。
情報・資料の共有と管理
ICTを取り入れ図面や工程表などを電子データ化することで、作業効率化と生産性の向上に期待できます。現場と事務所間で情報を共有・管理すると、変更や修正点をリアルタイムで共有することが可能です。
事務所間だけでなく、チーム全体で情報を共有することで、スムーズな連携と業務の精度向上が図れます。
安全の確保と健康管理
建設ICTによる安全確保・健康管理には、下記のような取り組みが進められます。
- 高所でのドローンを活用した撮影
- 現場監視システムによる安全の確保
- 工事現場警報システムの導入
- スマホアプリを用いた勤怠管理・健康管理 など
これらの取り組みにより作業員の安全が確保され、事故のリスク軽減が期待されます。また、従業員の健康状態を可視化することで、労働環境の改善にもつながるでしょう。
打ち合わせ・会議のための現場移動
建築業界では、遠方の現場作業や打ち合わせのために移動が必要になることが多く、時間やコストの負担が課題となっています。こうした問題を解消するために、Web会議システムの導入が効果的です。
移動時間や交通費、残業代を削減し、空いた時間を他の重要な業務に充てられます。さらに、遠隔地にいるベテラン技術者や専門家から、リアルタイムでアドバイスを受けることも可能です。
建設ICTの現状と課題
建設ICTの推進を図る中で、普及が進まないという現状と課題が明らかになっています。
- ICTの導入コストを捻出できず導入が進まない
- 従業員の高齢化によりデジタル技術の普及が難しい
以降では、建設業界でICTの普及が難しいとされる理由を解説します。
ICTの導入コストを捻出できず導入が進まない
ICTの導入は初期費用に加え、導入後の従業員への教育や維持管理の費用も発生します。初期費用や運用コストを確保するのが難しく、導入に踏み切れない企業が多い状況です。
ICT建設機械の導入を支援する補助金などもありますが、導入費用のすべてを賄うのは難しいでしょう。コスト負担の問題は、業界全体のICT化を妨げる大きな要因となっています。
従業員の高齢化によりデジタル技術の普及が難しい
長年アナログ作業を中心に業務を行ってきた熟練技術者にとって、ICTツールの導入や操作は大きな負担となります。また、技術の習得に時間を要するため、新しいシステムに順応するまでに、業務効率が一時的に低下することも懸念されています。
従業員の高齢化、そして若手人材の不足が問題とされる建設業界では、デジタル技術の普及が今後の大きな課題となるでしょう。
国土交通省による建設ICTの主な取り組み
国土交通省では、建設ICTの活用を推進する、下記のような取り組みを行っています。
- ICT導入協議会の設置
- i-Constructionロゴマークの決定・公表
- 建設ICTに関する優れた取組を行った企業を表彰
- 建設ICT活用状況・事例の公開
取り組みの詳細を1つずつ見ていきましょう。
ICT導入協議会の設置
国土交通省では、建設業におけるICT導入を円滑に進めるため、企業・大学・政府が連携する産学官関係者による「ICT導入協議会」を設置しました。
ICT導入協議会では技術の課題や効果的な導入方法について議論が行われ、現場での実践的な活用につながる方策が検討されています。
i-Constructionロゴマークの決定・公表
ICT活用の推進を広くアピールするため、国土交通省は「i-Constructionロゴマーク」を決定・公表しました。このロゴは、建設業におけるICT活用や効率化への取り組みを象徴するものとして、関係者や一般社会への認知を高める役割を果たしています。
ロゴマークを使用するのに申請は必要ありませんが、i-Constructionの取り組みの普及や促進が目的であることを条件としています。
建設ICTに関する優れた取組を行った企業を表彰
国土交通省では、i-Construction・インフラDXに関する優れた取り組みを行った団体に対し、表彰を行っています。2017年「i-Construction大賞」から始まり、2023年に「インフラDX大賞」に改称しています。
2023年度には、24団体が表彰されました。
参考:国土交通省「i-Construction大賞、インフラDX大賞」
建設ICT活用状況・事例の公開
国土交通省は建設現場でのICT活用状況や成功事例を公開しています。事例を公開することで、企業が導入を検討する際の参考として活用することが可能です。具体的な活用事例を示すことで、ICT導入の可能性を示し、業界全体のデジタル化推進を後押ししています。
建設ICTの活用事例
ここでは、建設ICTの活用事例を2つ紹介します。
- 事例①工事の監督・検査の効率化
- 事例②小規模掘削におけるICT建設機械導入効果
それぞれ詳細を見ていきましょう。
事例①工事の監督・検査の効率化
建設現場で用いるデータを一括管理できるプラットフォームを構築し、データ管理の効率化を図ります。
改善前 |
改善後 |
受注者ごとに異なるシステムへのアクセスが必要 |
複数の企業が閲覧できる協調領域を設けることで、データの受渡しの効率化につながる |
インターネットを通じて情報共有を行う情報共有システム(ASP)やクラウドサービスなどを活用し、データの共有・管理の効率化を図る事例です。
事例②小規模掘削におけるICT建設機械導入効果
上下水道などの管路地中埋設工事を、地小型ICT建機やICT測量機材を活用した効果と事例の紹介です。
従来手法 |
ICT手法 |
・始点・終点と線形の折れ点毎
に丁張りを設置 ・曲線の場合はさらに追加設置 |
・丁張りレス施工による作業効率向上・人員削減・安全性向上 ・チルトローテートバケット使用によるマ シン移動回数の低減(狭小現場でも作業 性の低下なし)
|
従来施工では現場作業員が2人必要だったのが、ICT施工では現場作業員が1人に減少しています。さらに、延べ作業(人・時間)は約5〜6割の削減に成功しています。
参照:国土交通省「小規模工事を模したICT施工技術の導入効果検証」
まとめ
建設ICTは、建設業界が抱える課題を解消し、生産性向上に期待できるIT技術です。
電子データによる図面や情報の共有、管理カメラによる安全管理、ドローンによる高所の撮影など、現場の効率化と安全性の向上に貢献します。
さらに、ICTの導入は業務負担の軽減にもつながり、労働環境の改善や若手人事の確保にも期待できるでしょう。
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株式会社アドバン代表取締役社長
「建設関連ソフトを通して世の中に貢献する」がモットーです。
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